ブルックナー:交響曲第3番 / セル, クリーヴランド管弦楽団
2018.09.16 Sunday
鮮烈な演奏!
僕が勝手に抱いていた「オーケストラ全体をゆったりと楽しむのがブルックナー」と言った印象を見事に覆された、とにかく切れ味の鋭い演奏。斧で大木をガツンと切り倒し、鉈で枝をスパンと切り落として行くが如く。
美しい弦楽器のタスペトリー、そこに官能的に絡み合う木管、そして何よりも、正義の旗を振りかざして突き進む金管。とにかく冒頭から聴き所満載なのだけれども、第3楽章から第4楽章にかけてのカタルシスが特に素晴らしい。
手許にあったブルックナーで、3番をしっかりと聴いた回数が実は少なく、このセルとクリーブランド管の1966年の演奏を何気なく入手し、再生した途端に「!」となったわけであります。
この「!」を解説するならば、「スリル、ショック、サスペンス」と分解出来ましょうか。どこかの歌のタイトルみたいですが。
まずスリル。とにかく一糸乱れぬ統率の取られた演奏。どこかで破綻してしまわないだろうかという、ギリギリまで追い込まれるかのように聞こえてくる演奏は、思わず手に汗握る緊張感を生む。
次にショック。これは既に書いたように「え!?ブルックナーって、こんなに劇的だったの?」と一発で目覚めさせられた衝撃。
最後にサスペンス。どこかで奏者が一瞬でも手許を狂わせようものならば、全てが瓦解してしまいそうな崖の上感。
これらを乗り越えて、曲の最後までたどり着いた瞬間に思わずスタンディングオベーションしてしまいたくなるほどに、興奮させられる演奏。これが半世紀以上の演奏だとは到底思えない、得も言われぬリアリティ。
うん。クラシックとはやはり自分との巡り合わせのタイミングで、感動のケミストリーを生むものなのだな。50年以上の時を経て巡り逢えたのは奇跡なんかじゃないよ。必然なんだよ。
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ベートーヴェン:交響曲第5番 / アバド, ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2018.09.02 Sunday
アバド&ベルリンフィルのドイツグラモフォン全録音60枚組CDボックスを購入したのです。ボックスセットの枚数もここまで来ると、来るところまで来てしまった感が強いのだけれども、まだまだ上には上があるしね、と自分を納得させての購入。@160ほどだったのでつい買ってしまった、と言うのも本音ではありますが。
この60枚を全て聴ききるには一生かかるだろうとは思ったのだけれども、そもそもクラシックに傾倒し始めた理由の一つが「クラシックは一生聴ける」と思うに至ったからでもあって。
さて、そこでアバドとベルリンフィルとの組み合わせなのですが、一聴してその場で気がついたのは「あれ?ベルリンフィルってこんなにスッキリしていたか?」と言うこと。
これまでベルリンフィルは主にラトルの指揮で聴いており、またラトルそのものが自分にとってのクラシックの入口の一つだったことから、最初のうちは全く疑問も持たずに聴いていたのです。
ところが、自分の音楽嗜好がクラシックに大きく傾き、その中で色々な指揮者、楽団の演奏を聴いているうちに「ラトルとベルリンフィルの組み合わせって、何かもっさりした感がないか?」と疑問を持ち始めたのであります。
その原因が、指揮者にあるのか、楽団にあるのか、はたまた録音にあるのか、その理由はまだ解明に至っていないのだけれども、ラトルのそれは華はあるが、どこか演奏の歯切れの良くない、何かが装飾されすぎたような演奏に感じられるようになっていたのは事実でして。
そこでこのアバドの演奏を聴いてみると、いや、実にこれまた見通しが良く、フルオケならではの重厚感と、同時にスッキリとした音の見晴らしの良さを感じさせられたのです。重いのだけれども軽やか。その二律背反が同時に存在する演奏とでも言いましょうか。
思うにアバドはシンプルに楽団をコントロールするタイプの指揮者なのではないかと。だからこそ、楽団の持つ力を素直に引き出すことが出来ていて、それが今回のインプレッションに繋がっているのではないかと、ベートーヴェンの第5番を聴きながらこれを書いている今、気がついたのです。
これは自分が今まで気がついていなかった鉱脈を掘り当てたかな、と言った感もあり。だとすればこの60枚組もじっくりと聴ける要素は多いだろうと期待も持てるわけで。
ややするとベルリンフィルを少し遠ざけ始めていた自分を、また引き寄せることになるのかなと。ラトルが任期満了になった今、今後のベルリンフィルにも期待出来るかもしれないし、また、このアバドが残した録音も十分に楽しめることになるだろうと。
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Claudio Abbado & Berliner Philharmoniker
DGG ¥ 11,420 (2018-08-17) |
バルトーク:ピアノ協奏曲第1番 / ブーレーズ, ツィメルマン, シカゴ交響楽団
2018.08.25 Saturday
20世紀のクラシックは「もう、やりたい事は先人達がやり尽くしたよ…」という燃え尽きがあると同時に、不可思議な情熱に満ちた作品が多い…ような気がする。
そのような中で、果敢に我が道を突き進んだのではないかというバルトークの存在は「難解だけれども、どこかユーモラス」と言った印象。
その難解さも手伝ってか、初めて聴いた時にはさっぱりわけが分からなかったのに、ふとした事で思わぬインプレッションを持ってお気に入りの作品になることだってある。それがこのバルトークのピアノ協奏曲第1番。
これのどこがユーモラスなのですか?と訊ねられれば、自分は真顔で以下のように答えるでしょうね。
まるで戦隊物のテレビ番組を見ているかのような第1楽章。いかにも悪と正義との漫然とした戦いを描いているようではないですか。
サスペンスドラマに使われていてもおかしくなさそうなのは第2楽章。これ、絶対に人が殺される直前の緊迫したシーンですよ。
アバンギャルドな時代劇にふさわしい第3楽章。街中に馬で乗りつけてきた武士が、いきなり切った張ったのチャンバラごっこを始める。
そうなんです。これ、テレビドラマのサントラにそのまま使われていても絶対におかしくない作品だと、自分は確信しましたね。いや、もしかしたらサントラの作曲家がバルトークのこの作品をさり気なくパロディめかして使っているのではないかとまで思えるくらいに、実に現代的。
なるほど、これは前衛と言うよりは今風なのだなと、もうこの作品を聴く頭はテレビ鑑賞モード。脳内で勝手に作られたシーンが次々と頭に浮かんでくるがごとく。
解釈は人それぞれなのがクラシックなのだから、こんな発想で聴いてもバチはあたらないだろうしね。いいんですよ、これで。
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