ハイドン:ヴァイオリン協奏曲 / カルミニョーラ, シャンゼリゼ管弦楽団

2018.07.15 Sunday

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    ディスクを再生させた瞬間に空気が変わる。18世紀の世界へようこそ。

     

    流麗という言葉では足りないほどにブリリアントな響きを聴かせてくれるヴァイオリンの調べと、軽妙な楽団のアンサンブル。初めて聴いた瞬間から耳をがっしりと持って行かれた美の中の美。

     

    ハイドンと言われても、あまり自分の印象には残らない交響曲が沢山ある程度の印象だったものが、このヴァイオリン協奏曲集を聴いてイメージが一転してしまった。「なんと美しくも甘く、そして凛とした旋律を描く作曲家なんだ!」と。

     

    それは弾き振りをするカルミニョーラのテクニックに寄るとことも大きいのかもしれない。いや、この響きにテクニックと言う単語はふさわしくない。譜面に描かれた設計図を音として立体化させる際に、何かの魔法をかけているかのごとく、その音をリアルなものとして伝えてくれる演奏家。

     

    そのヴァイオリンの響きには、耳に刺さる雑味が全く含まれておらず、甘い喉ごしの甘露のように耳に柔らかくもくすぐったく流れ込む。バロックの響きとはこう言うものなのかと改めて教えてくれるかのような、シンプルかつ歯切れのよい音の立て方。

     

    ついつい自分の興味が向きがちな大がかりな交響曲とは異なり、柔らかなその響きで気分を豊かにしてくれる演奏。クラシック音楽における「リッチ」さとは、何も音の塊だけを意味するのではなく、小さな空間に響き渡る音にも共通してある心地よさであると再認識した次第。巨大なダイヤモンドの煌めきもクラシックであるのならば、小さな真珠に反射する光もまたクラシック。これは思わぬ掘り出し物でありました。
     

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    ベートーヴェン:弦楽四重奏 / 東京クヮルテット

    2018.07.07 Saturday

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      2つのヴァイオリンとヴィオラ、そしてチェロ。弦楽四重奏として奏でられるベートーヴェンは、どこか古楽的な薫りを漂わせていながらもスマートにモダン。

       

      オーケストラの箱庭とも言えるだろうこの構成には、骨格のガッシリとした交響曲を聴くのとはまた異なった、クラシックの楽しみがある。それはおそらく4つの楽器にまで削ぎ落とされたことによる、音の見通しの良さと、そして4つの楽器だからこそ音を複雑に絡み合わせることも出来る、意外な万能さから来ているのかもしれない。

       

      主役の存在が分かりやすいのも弦楽四重奏の妙。またそれと同時にアンサンブルが生み出す音世界も、マッチョな構成の交響曲とは異なる別種の「クラシックを聴いている気分」を十二分に味わえる。

       

      作曲家が主張したい旋律が、明確に浮き上がるのも弦楽四重奏の特徴か。いや、紡がれる旋律の全てに無駄がなく、どの音のラインも曲を構成する上で重要なパーツなのだとも教えてくれる。

       

      音のコントラスト、濃淡も実に豊か。単なる強弱とも異なるグラデーションが明瞭であり、そして当然の事ながら、構成される全ての楽器が弦楽器であるため、音として安定した響きが得られ、空間へと解き放たれた音が柔らかく耳に滑り込んでくる。

       

      室内楽という言葉から想像されるこぢんまりとした世界とは全く異なり、そこから紡ぎ出される音は芳醇の一言。オーケストラの演奏に少し疲れた耳に、優しく語りかけてくる世界がここにはある。本当にクラシックなる音楽の森は分け入っても分け入ってもまだまだ奥が深くて先が見えない。

       

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      ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 / アシュケナージ, ハイティンク, ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

      2018.06.30 Saturday

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        美なるものと甘さたるものは混在ではなく両立するものなのか。その二つの螺旋が組み合わされて作られる演奏は、美なるものなのか甘さたるものなのか。この音楽には、その禅問答への答えが十分に含まれている。

         

        悔しいことに、美を語るにおいて、自分の美に対する経験値はまだまだ少なすぎる。美しいと捉えることは出来たとしても、それは正面から投影した光に弾き出された像を見ているだけであって、同時に生み出されている陰影にまで目をやることはまだまだ難しい。

         

        それでも深い彫刻であれば、影を見出すことは辛うじて出来る、いや、出来ていると信じたい。その刻みの深さがアシュケナージのピアノによって浮き彫りにされる旋律であって、そこに光を当て、包み込むように柔らかく寄り添うのがオーケストラのふくよかな響きではないかと。それらは組み合わせではなく、あくまでも螺旋なのだ。

         

        その回転しながら進み行く様が、美であり甘さ、粋たるものと表現してもいい、を組み上げ、また音をつかさどるものではないかと。回転が進むにつれ二者は滑らかに融合し、決して分離することのない音像を描き出す。原子から引き出された糸は、また別の原子へと繋がり、そして強固たる分子を生み出して行く。それはたとえ強固であっても、音という柔軟な素材を使うことによって、形ある一つの楽曲として成立して行く。

         

        音楽なる芸術は全てが様々な音で繋がって行く。そのような当然のことを再発見させられるようなこの螺旋の彫刻は、甘美という単語を用いて、自分の耳の中へと柔らかく滑り込むのである。

         

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        ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 / ネルソンス, ボストン交響楽団

        2018.06.16 Saturday

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          クラシック道の門を叩いた人に、いきなりショスタコーヴィチを突きつけたら、きっとその場で逃げ出すのではないか。

           

          それがショスタコーヴィチの第8番を聴いた時の率直な印象。第一楽章から20分にも及ぶ、紙のようなアダージョ。時折訳の分からない落書きがなされ、それだけでもう泣きたくなってくる。

           

          ショスタコーヴィチはもう御免蒙ると思ったのも束の間。「では、第5番ならどうだ?」と恐る恐る再生してみる。

           

          …難しい。非常に難しい。それでも難しいものを難しいとそのままにしておくのも、なんだか敵前逃亡をしてしまったチキンのような気がしたので、じっと我慢の子で聴き続けてみる。

           

          それでもやはり難しい。ピアニシモからフォルテシモまで、そして舞台に配置出来るありとあらゆる楽器を使いきり、それによって何かを訴えかけているようなのだが、その何かしらを意図するところの鉄壁な強さに、勝手な想像の余地も許されないようで非常に悔しい。

           

          そう、「俺様の音楽なのだがから、ありがたく聴きたまえ」とでも言ったような、恐るべきジャイアニズム。それがショスタコーヴィチなのではないかという結論に行き着いた。その音楽の前に、ただうなだれて頭を垂れ「なんだか分からないけれども、凄いですね」と、分からないなら分からないなりの賞賛を送るのが、正しい作法なのではないかと思わされるほどに、難しい。

           

          さて、難しい難しいと連呼したところで、ではなぜこれを題材にしたかと問われるのならば、難しいと思ったからこそネタにしたのだ、と堂々と胸を張って答えよう。2018年の今、自分にとってのショスタコーヴィチはこのような感想で、このような回答しか書くことが出来なかった。

           

          ならば5年後、10年後はどうだろうかと、その未来への便りとしてこれを書き残しておくことにしたのだ。そのような未来に自分がこの曲をひもといた際、どのような感想が生まれ、そしてそれが今の感想とどれだけのギャップを生み出しているのか、そこに興味がある。

           

          ショスタコーヴィチさん。いつかは絶対に自分のものにしてみせるからな。その日まで待っていろよ。

           

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          ショスタコーヴィチ:交響曲第5番、第8番&第9番、他【96/24】

           

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