ベートーヴェン:弦楽四重奏 / 東京クヮルテット

2018.07.07 Saturday

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    2つのヴァイオリンとヴィオラ、そしてチェロ。弦楽四重奏として奏でられるベートーヴェンは、どこか古楽的な薫りを漂わせていながらもスマートにモダン。

     

    オーケストラの箱庭とも言えるだろうこの構成には、骨格のガッシリとした交響曲を聴くのとはまた異なった、クラシックの楽しみがある。それはおそらく4つの楽器にまで削ぎ落とされたことによる、音の見通しの良さと、そして4つの楽器だからこそ音を複雑に絡み合わせることも出来る、意外な万能さから来ているのかもしれない。

     

    主役の存在が分かりやすいのも弦楽四重奏の妙。またそれと同時にアンサンブルが生み出す音世界も、マッチョな構成の交響曲とは異なる別種の「クラシックを聴いている気分」を十二分に味わえる。

     

    作曲家が主張したい旋律が、明確に浮き上がるのも弦楽四重奏の特徴か。いや、紡がれる旋律の全てに無駄がなく、どの音のラインも曲を構成する上で重要なパーツなのだとも教えてくれる。

     

    音のコントラスト、濃淡も実に豊か。単なる強弱とも異なるグラデーションが明瞭であり、そして当然の事ながら、構成される全ての楽器が弦楽器であるため、音として安定した響きが得られ、空間へと解き放たれた音が柔らかく耳に滑り込んでくる。

     

    室内楽という言葉から想像されるこぢんまりとした世界とは全く異なり、そこから紡ぎ出される音は芳醇の一言。オーケストラの演奏に少し疲れた耳に、優しく語りかけてくる世界がここにはある。本当にクラシックなる音楽の森は分け入っても分け入ってもまだまだ奥が深くて先が見えない。

     

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    ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 / アシュケナージ, ハイティンク, ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

    2018.06.30 Saturday

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      美なるものと甘さたるものは混在ではなく両立するものなのか。その二つの螺旋が組み合わされて作られる演奏は、美なるものなのか甘さたるものなのか。この音楽には、その禅問答への答えが十分に含まれている。

       

      悔しいことに、美を語るにおいて、自分の美に対する経験値はまだまだ少なすぎる。美しいと捉えることは出来たとしても、それは正面から投影した光に弾き出された像を見ているだけであって、同時に生み出されている陰影にまで目をやることはまだまだ難しい。

       

      それでも深い彫刻であれば、影を見出すことは辛うじて出来る、いや、出来ていると信じたい。その刻みの深さがアシュケナージのピアノによって浮き彫りにされる旋律であって、そこに光を当て、包み込むように柔らかく寄り添うのがオーケストラのふくよかな響きではないかと。それらは組み合わせではなく、あくまでも螺旋なのだ。

       

      その回転しながら進み行く様が、美であり甘さ、粋たるものと表現してもいい、を組み上げ、また音をつかさどるものではないかと。回転が進むにつれ二者は滑らかに融合し、決して分離することのない音像を描き出す。原子から引き出された糸は、また別の原子へと繋がり、そして強固たる分子を生み出して行く。それはたとえ強固であっても、音という柔軟な素材を使うことによって、形ある一つの楽曲として成立して行く。

       

      音楽なる芸術は全てが様々な音で繋がって行く。そのような当然のことを再発見させられるようなこの螺旋の彫刻は、甘美という単語を用いて、自分の耳の中へと柔らかく滑り込むのである。

       

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      ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 / ネルソンス, ボストン交響楽団

      2018.06.16 Saturday

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        クラシック道の門を叩いた人に、いきなりショスタコーヴィチを突きつけたら、きっとその場で逃げ出すのではないか。

         

        それがショスタコーヴィチの第8番を聴いた時の率直な印象。第一楽章から20分にも及ぶ、紙のようなアダージョ。時折訳の分からない落書きがなされ、それだけでもう泣きたくなってくる。

         

        ショスタコーヴィチはもう御免蒙ると思ったのも束の間。「では、第5番ならどうだ?」と恐る恐る再生してみる。

         

        …難しい。非常に難しい。それでも難しいものを難しいとそのままにしておくのも、なんだか敵前逃亡をしてしまったチキンのような気がしたので、じっと我慢の子で聴き続けてみる。

         

        それでもやはり難しい。ピアニシモからフォルテシモまで、そして舞台に配置出来るありとあらゆる楽器を使いきり、それによって何かを訴えかけているようなのだが、その何かしらを意図するところの鉄壁な強さに、勝手な想像の余地も許されないようで非常に悔しい。

         

        そう、「俺様の音楽なのだがから、ありがたく聴きたまえ」とでも言ったような、恐るべきジャイアニズム。それがショスタコーヴィチなのではないかという結論に行き着いた。その音楽の前に、ただうなだれて頭を垂れ「なんだか分からないけれども、凄いですね」と、分からないなら分からないなりの賞賛を送るのが、正しい作法なのではないかと思わされるほどに、難しい。

         

        さて、難しい難しいと連呼したところで、ではなぜこれを題材にしたかと問われるのならば、難しいと思ったからこそネタにしたのだ、と堂々と胸を張って答えよう。2018年の今、自分にとってのショスタコーヴィチはこのような感想で、このような回答しか書くことが出来なかった。

         

        ならば5年後、10年後はどうだろうかと、その未来への便りとしてこれを書き残しておくことにしたのだ。そのような未来に自分がこの曲をひもといた際、どのような感想が生まれ、そしてそれが今の感想とどれだけのギャップを生み出しているのか、そこに興味がある。

         

        ショスタコーヴィチさん。いつかは絶対に自分のものにしてみせるからな。その日まで待っていろよ。

         

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        ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》 / グルダ, シュタイン, ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

        2018.06.09 Saturday

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          ベートーヴェンの交響曲をどこかイージーリスニング的に聴き流せるようになってきたら、次はピアノ協奏曲へ。交響曲の見本市的な楽曲群とはまた趣が異なり、ピアノと言う単体かつ雄弁な楽器が主役を張ることで、曲にある種の緊張感が生み出される。

           

          ここで聴くことの出来るグルダの演奏は、リリカルかつダイナミクスあふれるもの。その振れ幅の大きさで、楽曲を雄大に歌い上げる。時にピアニストの性質に左右される神経質なまでに研ぎ澄まされた演奏ではなく、非常に滑らかな歌心を持った演奏であると言える。それは懐の広い、馥郁たる音そのものとしても感じ取ることが出来る。

           

          ベートーヴェンの交響曲に共通する骨格の明確さと、単独で歌い上げるピアノとの組み合わせとが相まって、どこか扉を一つ開けたような爽快感まで覚えるほど。

           

          自分がピアノ協奏曲に求めるものは、その爽快感に繋がるカタルシスであり、それを十二分に堪能出来る演奏がここにはある。

           

          そしてもちろん忘れてはならないのは、ウィーン・フィルによる芳醇なオーケストラの響き。ピアノが主役になりがちなピアノ協奏曲にあって、ここではオーケストラもまた主人公であり、楽曲に対するお互いの解釈の高さが相乗効果につながり、演奏を高い次元に押し上げていることが手に取るように分かる。

           

          ピアノとオーケストラのその両方の魅力をじっくりと味わいたい際に引き出す、解釈のしやすい名演として、常に手元に置いておきたい作品であることは間違いない。

           

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